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労使見解50 周年特集「人を生かす経営」関連3委員会大討論会

今年は、1975年に『労使見解(人を生かす経営~中小企業における労使関係の見解)』が発表されて50年目の節目です。
この機会に『労使見解』は現代においてどのように解釈されるべきかをあらためて考えるべく、人を生かす経営関連三委員会の委員長による討論会を開催しました。

<コーディネーター>
 経営労働委員会 委員長 松本 直也 氏((株)アルマ経営研究所 専務取締役)
<パネリスト>
 社員教育求人委員会 委員長 浅野 浩一氏((株)サンキョウ-エンビックス 代表取締役)
 障害者問題委員会 委員長 和佐田 歩 氏((同)ヘアーウォーク 代表社員)
『労使見解』発表当時の時代背景
松 本  はじめに『労使見解』発表当時の日本を振り返ってみましょう。当時は、中小企業の創業と廃業の双方が増加しており、新陳代謝の激しい時代でした。労働者の多くは成人男性であり、労働災害も多い状況でした。その後、企業数は1990年頃の約六百万社をピークに減少に転じ、現在は三百五十万社ほどになっています。また労働環境の安全確保が進むと同時に、女性の活躍や障害者雇用の推進等によって労働者層も大きく変化しています。
70年代中頃はインフレが問題になっていましたが、現在とは異なり、物価の上昇率以上に賃金も上がっていました。ただし、賃金が上昇したとは言うものの、中小企業の水準は1965年頃から現在に至るまで大企業の6~7割程度で推移しており、両者の賃金格差はほとんど縮小していないことには留意する必要があるでしょう。
「労働者」と「生活の保障」の現代的解釈
松 本  『労使見解』では「何よりも実際の仕事を遂行する労働者の生活を保障するとともに、高い志気のもとに、労働者の自発性が発揮される状態を企業内に確立する努力が決定的に重要」と述べられています。現代において「労働者の生活の保障」とは、具体的に何を指すとお考えでしょうか?
和佐田ここで言う労働者とは、広い意味では一般に会社で働く社員、狭義では自社の社員のことだと考えます。弊社でも社員がそれぞれに能力を発揮して働いてくれています。障害者問題委員会の立場で述べますと、障害のある方や就労困難者を含むあらゆる人がそれぞれに「働く能力」を持っていると捉えています。つまり誰でも「労働者」になれるわけですから、我々経営者はそうした多様な人々が働くことができる会社づくりをしていく必要があります。「生活の保障」については、社員が仕事の目的を理解し、技術や人間力を身につけられる環境を整えることが経営者の責任だと考えます。また、社会に必要とされる会社で働き続けてもらえるよう、自社をより良くしていく必要があると思います。
浅 野『労使見解』の前書きにある通り、社員を「最も信頼できるパートナー」と捉え、「団結し共に育ち合い、一緒に会社を盛り上げていく仲間」と考える必要があると思います。「生活の保障」で求められるものは、まずは「お金」です。しかしこれからの時代は「時間」も重要です。仕事のやりがいや成長を求める人も多く、これらの保障が不可欠だと思います。
中小企業における賃金水準の課題
松 本  中小企業の賃金水準についてはどうお考えですか。
浅 野国は時給1,500円を目指すと言っていますが、これは憲法で定められた「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という生存権を保障するために国が算出したものです。経営者にとって最も身近な国民は、社員とその家族です。その社員の生活を保障するためにも我々経営者は必要な額を確保する経営努力を重ねなければなりません。しかしそれだけでは十分ではありません。「時間」や「やりがい」も保障しなければ会社から人がいなくなり、賃金どころか事業を継続することすらできなくなる可能性が高いと思います。
松 本企業に求められている保障は多様化しており、それを我々が経営にどう落とし込むかが重要なポイントですね。
技術革新と労働者の自発性・創意性
松 本  技術革新による労使関係の変化についても考えてみましょう。機械化や自動化によって仕事が単純化されると、人間は物事を考えなくてもよくなります。しかし『労使見解』には「技術革新が進み、仕事はますます単純化され合理化される中で、社員の自発性や創意性をいかに発揮させるかは、我々経営者の仕事」とあります。日進月歩で技術が進化し続ける現代において、どうすれば労働者に自主性を発揮してもらえるのでしょうか。
和佐田私は、社員それぞれの得意分野を生かすことが重要だと感じています。以前は「どんなお客様も一人で対応できなければダメだ」と思っていましたが、苦手なことはみんなでフォローし合うことで社員が生きいきと働いてくれるようになりました。
松 本助け合いや協力を通じて一人ひとりの能力が十分に発揮できる場が必要ということですね。浅野さんはいかがでしょうか。
浅 野今の若い世代は、学校で自主性や主体性に関する教育を受けています。会社や組織に依存するのではなく自分の力や考え方で生きていくことに価値を見出す傾向が強い。我々中小企業は、そんな彼らに選ばれる組織になっているでしょうか? 彼らが働き続けてくれる会社になっているでしょうか? そう考えると、経営者に求められるものは社員が育つ場を提供するだけでなく、育つ仕組みを作ることではないでしょうか。もし、資金や時間がないと言うのであれば、それを可能にする仕組みを作る必要があります。そのためには投資の視点を持たなければなりません。「人材に投資し続けることで企業を変革する」という覚悟があれば、組織も人材も成長すると思います。
松 本会社として日々新しいチャレンジをしていくことが自主性や創意性を発揮する余地を作る上で必要なのかもしれませんね。
中小企業に寄せられる期待
松 本  最後に「中小企業に対する期待」について考えます。時代の変遷とともに国が求める中小企業像は大きく変化してきました。70年代には「中小企業は弱者であり、大企業との格差を是正してあげなければならない」という中小企業弱者論が中心でした。その後、「中小企業は多様で活力ある存在」に変化し、2010年に閣議決定された『中小企業憲章』では「中小企業は経済を牽引する力であり、社会の主役」と位置づけられました。つまり、現代において中小企業は経済的存在であると同時に地域にとって不可欠な社会的存在であり、逆に言えば地域に貢献しなければならない存在でもあるということです。
『労使見解』には「国民生活の豊かな繁栄のために、中小企業の存立と繁栄は欠くことができないものであり、中小企業における労働者、労働組合にとっても、その安定性のある企業と職場は生活の場であり、社会的に活動する拠り所として正しく理解するよう期待」とありますが、この「正しく理解する」とはどういうことなのでしょうか。我々中小企業は誰からの期待に応えるべきなのでしょうか。
浅 野一般的にはステークホルダーからの期待と考えられているのでしょうが、本当は一番身近な国民である自社の社員とその家族、そして経営者自身とその家族の期待ではないでしょうか。中小企業は社員と経営者、そしてその家族の人生と暮らしを支える「砦(とりで)」にならなければならないと思います。
松 本確かに中小企業の社員とその家族は「地域と国民」という視点に見事に一致していますし、その人達の期待に応えられなくては、地域の期待に応えられることはないというわけですね。
下段(左から):和佐田 歩氏(パネリスト)、松本 直也氏(コーディネーター)、浅野 浩一氏(パネリスト)
地域社会と中小企業の関係
松 本  「地域社会と中小企業の関係」についてはいかがでしょうか。
和佐田弊社がある総社市は、障害者雇用を推進することで障害者が社会とつながり、生活しやすくなっています。それだけではなく域外からも彼らが家族ぐるみで引っ越してきてくれています。障害者が過ごしやすいということはその家族も過ごしやすいはずですから。障害者の親御さんの「うちの子と社会をつないでほしい」という切実な言葉を聞いて、企業は人と社会をつなぐ存在だと強く感じました。この認識を地域の経営者や企業と共有できれば、地域はもっと良くなると思います。
松 本「地域の課題」に企業が関わるということですね。浅野さんはいかがでしょうか。
浅 野若者が流出しているエリアでは地域経済が成り立たなくなり、中小企業の生存競争が既に始まっています。今こそ私たち中小企業は、様々な人々と共に地域の未来像を思い描き、新しい未来を創造しなければならないと思います。そのためには産官学民が協力して地域を盛り上げていく必要があります。その中に新しいビジネスチャンスも見えてくるでしょう。明るい未来はその先にあり、岡山同友会がその牽引役を担えたらと思います。
まとめ
松 本最後に一言ずつお願いします。
和佐田  これからも社員への理解を深めると同時に、私自身も社員から理解してもらえるよう自己開示しつつ一緒に進んでいきたいと思います。社員と社会のつながりを作るという企業の役割を実践できる経営を進めてまいりたいと思います。
浅 野経営には教科書もなければ答えもなく、経営者は常に「経営とは何か」を問い続けていかなければなりません。同友会はその答えのない経営を学ぶ場だと思います。経営者が社員と共に学び、共に育ち、共に生きていける強い組織を作ることができれば、結果として「良い会社、良い経営者、良い経営環境」を実現することができるでしょう。自分のいない未来を想像し、今の自分にできることを考えて企業経営をしていきたいと思います。
松 本ありがとうございました。私たちは時代や価値観の変化に合わせて『労使見解』を読み解く必要があります。『労使見解』は同友会の学びの根幹ですが、聖典のように扱うのではなく、それぞれが考えてそれぞれの結論を出していくことが必要です。先人達が何を伝えたかったのかを自分なりに解釈し、壁を乗り越えていくことで『労使見解』の価値は一層高いものになると思います。今回の討論会が「人を生かす経営~中小企業における労使関係の見解」の今日的意義を考える一つのきっかけになれば幸いです。

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