西日本豪雨の記憶を企業防災に
真備復興スタディツアー
~岡山同友会から11人が参加~
決壊個所を見学
県内に戦後最大級の被害をもたらした2018年7月の西日本豪雨。中でも倉敷市真備町は、小田川の堤防が決壊して甚大な被害を受けました。。あれから3年が経ち、当時の記憶を風化させることなく今後の企業防災等に役立てることを目的に、8月3日、「真備復興スタディツアー」に参加しました。
本ツアーは、倉敷市や河川事務所、地元商工団体などが協力してこの夏初めて企画されたもの。バスの運行は(株)日の丸タクシー(平井啓之社長・倉敷支部)のグループ会社、日の丸旅行真備営業所が担当しました。
9時30分に倉敷駅に集まった一行は、平井社長がガイドを務めるバスに乗車。国土交通省河川事務所の職員も同行し、当時の小田川の状況や復旧工事の進捗、23年度に完成予定の小田川合流点付け替え工事などの説明を受けながら各地を見学しました。
国土交通省職員が復旧状況を説明
午後からは(株)日の丸タクシーを訪問し、豪雨時の状況やその後の復旧に向けた取り組みについて、平井氏と社員7人から話を伺いました。堤防が決壊した時、平井氏は被災した多くの近隣住民を二階に保護し、身動きもままならないすし詰めの状態の中、自衛隊のボートで救出されるまで不安な一日を過ごしたそうです。同社は観光バスやトラックなど44台が水没したほか運行管理システムや顧客データ等も失われ、社員の多くが自宅の被害を受けました。誰の目から見ても事業再開までには相当の期間を要すると思われる状況でしたが、平井氏は「地域交通の担い手として地域を守る」という理念のもとで覚悟を決め、2日後にはかろうじて浸水を免れた車両を使い営業を再開。運行管理は紙の地図とタクシーを模したコマを使った昔ながらのアナログ方式に切り替えて住民の要望に応え続けました。当時のことを平井氏は「会社が本当に継続できるのか不安に押しつぶされそうになったが、社員が一緒に取り組んでくれたことが何よりの励ましになった」「社内の結束力が増し、自分も社員も成長することができた」と振り返りました。そして平井氏は「原動力となったのは同友会で作った経営理念。理念があったからこそ全社一丸となれた」と強調しました。
また社員の皆さんは、各自の担当の視点から現在までの道のりについて話されました。ある方は「平井社長には『会社のことはいいから家庭を優先して』と言われた。地元の会社の多くが転出したり廃業したりする中で、自分たちが戻れる職場を残してくれた社長には感謝しかない」と声を詰まらせながら心境を語りました。
平井氏は最後に「経験だけで物事を判断せず、日頃から危機意識を持って対策を打っておくことが大切」と注意を呼びかけ、締めくくりました。
感染対策をして記念撮影
参加リポート
(株)成和設備工業所 代表取締役 藤井孝章(岡山同友会代表理事)
「真備復興スタディツアー」で心あらたに
猛暑の中、真備復興スタディツアーに同友会の11人で参加しました。あの衝撃的な光景を目にしてから早3年が経ち、現在の復興の進捗状況を確認するととともに災害リスクについてあらためて考えるツアーでしたが、私たちの期待をはるかに上回る素晴らしい内容でした。
80年前の室戸台風では岡山県も甚大な被害に見舞われ、岡山市内でも広範囲で浸水がありましたが、西日本豪雨ではその教訓を生かすことができなかったのが現実でした。しかしながら今回、小田川付け替え工事の説明をしていただいた国土交通省河川工事事務所の副所長や課長代理さんのお話をお聞きすると、国の災害に対する取り組みは着々と進んでいることが確認できました。そして万全なインフラ対策によって倉敷市街の水害リスクをも防ごうとされていることに大きな安心を得ました。
後半では、西日本豪雨で被災された日の丸タクシーの平井社長から、被災当時から現在に至るまでの力強い歩みをお聞きして、その淡々とした態度からは想像もできないほどの苦難の道のりがあったことが推し量れ、経営者として尊敬の念を新たにしました。特に素晴らしかったのは、社員さんお一人おひとりが順番に話された災害時の様子やその後の取り組みです。自宅も被災する中で、平井社長の懸命な姿を見て「自分たちも力を合わせて職場を守り抜く」と決意し、必死の思いで会社の再建にあたってこられた姿に神々しいものを感じたのは、同行したみなさんも同じであったと思います。
ツアーに参加し、県民一人ひとりが災害リスクを正しく認識して具体的な対策を備えていてこそ初めて豊かな未来が約束されるのだということを再認識いたしました。今回のツアーを企画・提案してくださった皆さんに心から感謝申し上げます。